
シンポジウムで意見を述べる(右から)矢倉さん、江夏さん、遠藤さん、酒井さん
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「子ども大学かわごえ」は、川越市在住の元商社マンで早稲田大学産業経営研究所 特別研究員の酒井一郎さん(72)がドイツで仕事をしていた2002年ごろ、世界に先駆けて行われていた子ども大学に感銘を受け、日本でも「なぜ?」という疑問・関心から探求心や発想を育む、同様の教育機関ができないかと考えたのがきっかけ。
酒井さんは今年5月、的場の東京国際大学の副学長・遠藤克弥さん(57)らに設立を相談、尚美学園大学・東洋大学・市教委など教育関係者と話し合い、運営母体となるNPO法人設立に向け準備をしてきました。9月に設立に漕ぎ着けたNPO法人「子ども大学かわごえ」は来年1月6日ごろに認証される見込みです。
子ども大学かわごえは、なぜ?という疑問・発想を伸ばす「はてな学」、将来選択のヒントを見つける「キャリア学(生き方学)」、ふるさと川越を学ぶ「ふるさと学」の3つの学科で構成。1年を前期・後期に分け、前期は3月20日から22日まで3日間の日程で、東洋大学工学部・尚美学園大学・東京国際大学を会場に大学の教員らによる授業(内容は今月中に決定)を予定。後期には、NHKの「週間こどもニュース」でお父さん役を務めていたフリージャーナリストの池上彰さんらの授業を予定しています。入学・授業料は1000円。生徒募集は2月20日からで、定員は各日50人(できれば保護者同伴)。詳しい問い合わせは、☎ 080-2053-2991 または Eメール i-sakai@river.ocn.ne.jpまで。
シンポジウムに先立ち、開校後に事務局長を務める酒井さんがドイツの子ども大学の例をスライドで上映。子どもたちが目を輝かせ、生き生きと学んでいる様子などが紹介されました。
続く基調講演では、「子ども大学かわごえ」の学長を務める遠藤克弥さんが「本当の学力とは」のテーマで、「『力』というのは次の新たな動きにつなげるためのエネルギーのことで、『学ぶ力』も同じ。一つの疑問が探求心を呼び起こし、一つ学んだ知識が『もっと知りたい』という新たな力や行動に結びつくのです。それは数値で表わす学業成績とは全く違うもので、生きる原動力になるのは知的好奇心から身に付けたさまざまな知識・力です。『もっと情報が欲しい』という好奇心が学ぶ力の源なのです」などと話しました。
また、小学6年生のころに、近所の大学生に「三角形の内角の和は、線が曲がっていたら180度になるとは限らない」と言われてびっくりし、もっと勉強してみようという気持ちが起こったこと、姉にいきなり「英語の本を読んでみろ」と言われて、見たこともない言語に興味が湧いたことなどのエピソードが披露されました。
遠藤さんは「子ども大学では『なぜ飛行機は飛ぶのか』『なぜ人間は悩むのか』など、『なぜ?』という好奇心が『もっと学びたい』という足掛かりになるような授業をしていきたい」と話していました。
| シンポジウム「本当の学力とは」 |
司 会 |
「子ども大学かわごえ」理事・矢倉久泰(元・毎日新聞論説委員、教育ジャーナリスト) |
パネリスト |
「子ども大学かわごえ」理事長・江夏健一(早稲田大学名誉教授・前副総長) |
パネリスト |
「子ども大学かわごえ」学長・遠藤克弥(東京国際大学副学長) |
パネリスト |
「子ども大学かわごえ」事務局長・酒井一郎(早稲田大学産業経営研究所 特別研究員) |
シンポジウムの主なやりとりは次のとおりです。(要約・一部敬称略)
矢倉「私は酒井さんの『川越で子ども大学を立ち上げたい』という考えに共鳴し、設立に参加しました。きょうは、この学校を運営・企画立案する理事の皆さんで『子ども大学の役割』『本当の学力とは何か』をテーマに、意見を交換していきたいと思います。最初に、日本の子どもの学力はどうなっているのか、現状・問題点などについて一人ずつご意見を伺いたいと思います」
江夏「3〜4歳のころ、父親が使っていた電話帳を見て自分から自然に『あいうえお』を覚えた。『学ぶ力』とは自学自習の力で、『勉強しなさい』という言葉は『勉めて強いる』という行為を強要しているわけで、せっかく興味を持ったことでも全部捨てちゃうことがあり得るんです。大学時代、アルバイトでNHKの「チロリン村とクルミの木」や「こぐまのコロタン」の人形使いをやって大学院に進みました。
無駄だと思うようなことでも身に付けることで『人間力』が養われる。若いうちにいろいろなことにチャレンジすることで応用力が生まれます。単なる数値や尺度で測れないものをどう評価したり、くみ取っていくかが親や教育者・社会に求められているのだと思います」
矢倉「さまざまな経験が『人間力』を育むというお話でしたが、ノーベル科学賞を受賞した福井先生や白川先生は子どものころ、昆虫採集や植物採集に夢中になって野原を飛び回っていたそうです。昆虫も草花もいろんな多様な色・形があり、こうした経験を通して自然界の不思議さの中から研究の土台が出来上がったのではないかと思います」
遠藤「PISA(OECDが3年に1回行っている国際学習到達度調査)の結果では、平成12年には日本の『科学的活用能力は32カ国中2位』『数学的活用能力は1位』『読解力は8位』だったものが、15年にはそれぞれ『41カ国中2位、6位、14位』に、18年には『51カ国中6位、10位、15位』に落ちています。また、『学校外での一日の過ごし方』のうち『宿題をする』は日本が1時間で国際平均は1.7時間、『テレビやビデオを見る』は日本が平均2.7時間で国際平均が1.9時間、『家の手伝いをする』は日本が0.6時間で国際平均が1.3時間というデータが出ています。
これが学力低下につながっているかどうかは言えませんが、アメリカではかつて「日本からこれだけは輸入したくない物」として親指だけ動かして遊ぶという意味で"サムカルチャー"のテレビゲームや携帯電話のメールが挙げられていました。結局入ってしまいましたが、アメリカではその影響を調べ始めています。テレビやインターネットなどは決して悪いものではなく、メディアを有効に使う方法を学ぶことが大事なのだと思います。
昨今、大学に入ってくる学生の基礎学力や学習意欲・興味が足りないことが言われますが、これらは『学ぶ』という姿勢が身に付いていないからです。学校や地域社会が一緒になって子どもたちの『学ぶ力』を刺激するよう支援していかなければ、国際社会の中で日本が共存し勝ち残っていくことはできません」
酒井「ビジネスの世界にいたころは人事部長として社員の採用・研修にあたりましたが、採用で重視したのは学校の成績ではなくて、やる気やコミュニケーションの力・発想のおもしろさです。大学で就職部長として企業が求める学生の指導にあたった経験では、まじめに講義は聴いて成績も良いが友達の少ない人は、以外にも就職に困っていたということがありました。
企業の人事採用者が重量視するのはコミュニケーション能力とチャレンジ精神で、次に協調性・主体性・誠実性と続くそうです。小学校から大学まで、こういった点にどれだけ教育してきたかというと、産業界のニーズと学校教育とものすごくすれ違いがあると感じます。基礎学力も重要ですが、コミュニケーション能力や協調性のような『人間力』はもっと大事なのでは。
世の中の動きが直線的な高度成長社会では体育会型の『頑張る力』が求められましたが、明日はいったい何が起こるか分からないような国際社会では、チャレンジ精神・協調性・主体性が要求されます。産業界では学力・知能指数を測るIQよりも、心の知能指数を測るEQの方が重要視されるのです」
矢倉「企業が求める能力と学校で育てる能力にギャップがあるというお話でしたが、この点をこれからどの様に埋めていくかが課題だと思います。こうした現状を踏まえ、私たちが目指す『本当の学力』とはどうあるべきなのか。それに向けて私たち『子ども大学』はどういう教育をやっていけばいいのか、お一人ずつご意見をお聞きしたいと思います」
江夏「早稲田実業高校の校長を務めていたころ、他校の生徒たちとけんかするなど色々な問題を起こしては父兄と一緒に呼び出され、何度も校長訓告を受けていた生徒がいました。彼は仲間内ではリーダシップを発揮して信望もありましたが、責任を一身に背負うあまり、ついには退学勧告を受けることになりました。普通にしていれば早稲田大学に進学できたはずですが、結局彼は高3の夏に退学になりました。ところが彼はその後、自ら勉強し大検を受けて東大に行ったのです。
こうした力を、私たち教育者がどう引き出していくのか。『失敗したらおしまい』なのではなく、失敗をバネにする力も『生きる力』なのだと思います。これから始まる子ども大学の取り組みが川越にとどまらず各地に広がっていくことを願って、名称も当初予定していた『川越子ども大学』ではなく『子ども大学川越』に変えました。子どもたちの夢を大切にし、"出る釘を伸ばす"大学でありたいと思っています」
遠藤「小さいころから『こういうことをやりたい』という夢があって、それが変わっていってもかまわないんですが、そういう夢があるということが大切なんだと思います。大学を選ぶ際、将来こういうことをやりたいからこの学部を選ぶという気持ちととりあえず大学へ行ってみようというスタンスには大きな違いがあり、せっかく入学しても1〜2割が辞めてしまうということが多くなっています。
企業はかつて『大学では基本的な学力を付けてもらえれば、後は企業が教育する』と言っていましたが、今は『コミュニケーションのような実戦力を期待する』に変わってきています。急に変えられるものではないんですが、コミュニケーションやプレゼンテーションは今や必須科目になっています。こうした力は大学で慌てて養うようなものではなく、小学生のうちから探求心やコミュニケーション能力に視点を置いた教育に変化しなければいけないのだと思います。
学校制度が急に変えられないのであれば、社会制度全体の側から変えられないかということで、『子ども大学』と地域の教育システムを連携させて子どもの能力を養っていきたいと考えました。日本の教育は、できるだけ良い形のものを作っていこうという"盆栽教育"で、形の悪いものははねられる。アメリカなどは個性的なものがそれぞれ認められる"自然教育"で、個性を認めてその力を社会に活かすような教育に日本も変わっていかなければいけないのだと思います」
酒井「2005年に内閣府が全国の15〜29歳の若者とその親に対し行った『青少年の社会的自立に関する意識調査』によると、小学生のころに外で遊ばせたりさまざまな体験をさせるなど"伸び伸び子育て"で自由に育った若者は、母親がきっちり管理して勉強させる"きっちり子育て"で育った若者に比べ、フリーターや無職になる確率が少ないという結果が出ているそうです。また、伸び伸び育った若者はコミュニケーション能力がありポジティブ思考で、現在の生活に高い自己満足感を示しているそうです。
就職した学生のうち30%が転職してしまうという現象が起きていますが、小さいころから『なぜ?何?』から始まる『知的な経験』をしていることが将来の選択肢を広げ、自分の進路に影響を与える可能性が大いにあるのではないかと思います。子ども大学で、そうした『知的な出会い』『学ぶ楽しさ』が提供できればと考えています」
矢倉「『学力と学業成績とは違う』というお話がありましたが、学業成績はその子どもの学力のごく一部にすぎないということがお分かりいただけたかと思います。一定の基礎学力を身に付けた上に『生きる力・人間力』を育むことで、豊かな人生を送ることができるのだと思います。1996年に中教審が答申した『21世紀を展望したわが国の教育の在り方』という報告書の中で、"これからの変化の激しい社会において、どんな場面でも他人と協調しながら自立的に社会生活を送っていける人間としての実践的な力・生きていくための知恵とも言える力で、自分で課題を見つけて考え自ら問題解決していく知識や能力『生きる力』を身に付けよう"という考えが示されています。
『子ども大学かわごえ』では、子どもたちの驚きを引き出す・変だという感じを引き起こすという観点から、子どもたちが身近な生活で感じる『なぜ?』という素朴な疑問に応えられるようなカリキュラムを組んでいきたいと思います」
(写真は三久保町の中央図書館で)
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